【四国遍路】暖かさ【35日目】

スポンサーリンク

朝起きると、既に久保さんは出発した後だった。ルート自体は同じなのでまたどこかで会うのだろう。それよりも今日は雨の中、四国遍路で3番目の標高を誇る横峰寺に登らなければならない。

道の駅にはキャンピングカーがたくさん停まっている。久保さんのように車中泊で四国や日本一周している人なのだろう。そんな方達と朝軽く挨拶を交わし、横峰寺へと続く山道を登っていく。

やはり雨の山道は危ない。苔の生えた石などは滑り易いので注意して進む。しかしもうこの辺りになってくると、辛さというよりも山を楽しもうという気持ちの余裕も出てきて、ゆっくりと、へんろ道を歩かせて頂けるということを噛み締めながら、大体2時間くらいで山門に到着。ゆっくりと登ったせいか、全然辛くはなかった。

横峰寺での参拝を終えると雨も上がり、汗が冷えて急激に寒くなってきた。凍えている僕を不憫に思ったのか、納経所の方が飴とタルトをお接待で下さった。まだ今日は胃に何も入れていなかったので激ウマである。

横峰寺から下山をしている途中、横峰寺行きのバス乗り場に食事処の看板が見えたので、ここぞとばかりに入店。食べられるときに食べておかねばならないことは、四国遍路で痛いほど学んだ。奥にいた女店員さんに挨拶し、ワンコインランチを注文する。


どーーーん!!!


500円で酢の物までついて、ボリュームも身体にも良さそうな文句なしのランチだった。

お代を払おうとすると先ほどの女性店員さんが出てきてお接待だからお代はいいよ!とのこと。

こんなに食べさせて頂いてお接待までしてもらった。何も渡せるものがないが、せめてものお礼の気持ちとして納め札をお渡しする。

そこからその女性としばらく話すことになるのだが、なんというか、よく笑い、笑顔が絶えない人で、キャッチフレーズを付けるなら「伊予のおてんば娘」が凄いしっくりくる。

ここには書けないがその人の男性遍歴の話や、約9年間引きこもっていた話、インドの話、僕自身の話でもまた盛り上がり、必ず飲み行きましょう!というサカズキの約束を交わし、このお店を後にした。

なんだろう、こういう雰囲気の人はズルい。「人たらし」とでも言うのだろうか、向こうもノーガードで来るから、こっちも合わせてなんでも話せてしまう。そしてこの人との会話で、俄然インドに行きたくなってきた。

お腹も満たされ、良い出会いもあり、店を出る頃には雨も上がり、カラリとした晴天になっていた。これほどの遍路日和はそうそう無い。


64番へ向け林道を下山していると、遠目に4足歩行する何かが見えた。目が悪いのでカメラでズームしてみる。

犬ぅぅうっっ!!!

遠目では黒いイノシシかと思い、近づいてこられた時は若干焦ったが犬だった。

この犬かなりお腹を空かせているようだったが、あいにく何も食べ物は持っていない。せめてもと飴を1つあげるとペロペロと舐めていた。

こういう場合、どうすればいいのだろうか。おそらく野良犬だとは思うが、人に慣れているので今までも人間から食べ物を貰ってきているのだと思う。首輪でも付いているなら迷い犬としてどこかに連絡した方がいいのかもしれないが……更にはこの犬に餌をあげる事それ自体も色々な観点からやめた方が良いのでは無いかと思ったり……

数分間逡巡してはみたものの、結局正解は分からなかった。その間にその犬は別の人間に餌を求めてか、スタスタと歩き去ってしまった。

モヤモヤした気持ちを残しながら64番の前神寺に到着。

ベンチで休憩していると、挨拶を交わした車で廻っていると思われる女性の方からお接待で1000円のお布施を受ける。ありがとうございます。

そしてこのお寺で久保さんと再会し、今日は久保さんに同行させて貰い、温泉に連れて行って貰った後、車中泊する道の駅でテントを張る事に!

まずは腹ごしらえと昨日行ったボリューム満点のうどん屋で飯を食らう。「お接待は義務みたいなもんですわ!」と以前笑いながら久保さんは言っていたが、当たり前のようにこのうどんもお接待頂いた。

というかうどんだけではない、その後の温泉入浴料も、昨日と同じで晩酌の酒代とツマミの数々も全てお接待して頂いた。

本当にありがたいと思いながら、久保さんの善意を全て受け取る。あとは楽しむだけである。楽しむ事こそが、今僕に出来る最大の提供であると思い、娑婆感全開の宴を40歳ほど離れている人と2人、目一杯愉しんだ。

そういえばどこで知ったかは知らないが、地元の友人が僕がお遍路をしていると知り、1万円のお布施をしてくれた。正直、そんなに頻繁に会うわけでも、交流があるわけでもないのに、だ。

僕が今まで周りの暖かさに気が付いていなかっただけなのか、何か新しい事を始めると人は応援したくなるものなのか、よく分からないが、まさに今、自分はその暖かさによって生かされているという事だけは、強く、感じない日はない。

これは余談だけれど、冷静に考えると四国遍路の旅費がお接待として頂いたお布施でまかなえるんじゃないかという気がしている。

細かく数えているわけではないけれど家族からお布施してもらった5万円を合わせると、おそらく10万円は頂いていると思う。金額の大小というよりも、そこに込められた1つ1つの気持ちが嬉しい。

それを感じながら明日も結願に向けて一歩ずつ歩いていこうと思う。

【支出】飲食費130円、交通費160円

【歩行距離】31.4キロ

【参拝霊場】60.64

スポンサーリンク

【ふぉろーみー】