【四国遍路】茶色の悪魔【高野山①】

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高野山には当初1日しかいない予定だったが、蓋を開けてみれば3日も滞在していた。高野山編ではその3日の記録を写真多めで公開していこうと思う。

森夫婦の家がある香川から高速バスで大阪は難波まで足を進め、そこから南海なんばで「特急こうや」電車に乗り継ぎ目的地である高野山を目指す。

車窓を眺めながらマリ姉に作ってもらった手作りお弁当を頬張る。こういう青春18切符を使ったようなのんびりとした旅に心が躍る。完全に初老である。

高野山へと近づくにつれ、ただでさえガラガラだった車内からはどんどん人がいなくなり、ついには誰もいなくなった。完全に電車貸切状態である。いや、なんか恐いわ。

目的駅である「極楽橋」で下車する。本来ならここからロープウェイで高野山まで登っていくのだが、極楽橋からは約1時間くらい歩いて高野山へと至るハイキングコースがあり、僕はそちらを選択した。本当は電車も使わず、町石道と呼ばれる一番下のところから徒歩で登ってくるコースもあるのだが、そちらは30キロ弱あるため、時間的に山中で夜を迎えることになってしまいそうだったので今回は諦め、極楽橋から登ることにしたのだ。

ここまで運んでくれた文明の利器「電車」にお礼を言い、極楽橋駅に降り立つ。

久しぶりに軽登山が出来るということでウキウキしながら歩いているとこんな警告が。

まぁ山にクマはつきものだし、そこまで気にもとめなかった。この時までは……。

不動坂から山中へと入っていく。

歩いていくにつれてロープウェイの音がどんどん遠くなっていくのが聞こえる。山中に一人きりになると心細くなるが、そんな時には杖の音が心の支えになってくれる。

やはり、大窪寺で奉納しなくてよかった。ここでも助けられている。

およそ50分ほど登った辺りで、舗装路へと出る。

奥の方に「女人堂」と書かれたお堂が見える。

おお!やっと高野山入り口かあ!と思い、晴れ晴れとした気持ちで近づくと、そこの住職さんらしき人が声をかけて来るやいなやこう言い放つ。

「今さっき、そこにクマ歩いてたから気をつけてね。」

!?

「昨日は大門の方で出て、一昨日は上の広場の方で出たから注意してね。」

は!?!?

ラフか!!!!!!!

クマの注意勧告ラフか!!!!!!!!

ちなみに僕野宿なんですけどね!!!!!!

――仏さんよ。。。わしゃ、ここに来て最後の最後で死ぬんかいな……。

しかしここまで来てクマに屈する訳にはいかない。数分前にクマが呑気に歩いていたという高野山への入り口を辺りを警戒しながら少し小走りで進む。

正直せっかく初めての高野山だと言うのに頭の中は今夜クマに襲われないように野宿するにはどうしようかということで頭がいっぱいだった。

道中、野宿できそうな公園の東屋はあったものの、横はすぐ山だったため、クマの脅威により断念せざるを得なかった。

こうなってくるといよいよ野宿できそうな場所が見当たらない。基本的に野宿はあまり人目につかない場所のほうが好ましいのだが、今回の場合人目につかない場所というのはすなわち、あの毛むくじゃらの悪魔の餌食になる可能性をはらんでいるのだ。

そのまま時間だけが過ぎ、パラパラと雨も降り始めた。切羽詰まった僕はダメ元で高野山の警察署へ駆け込み「この辺で熊に襲われずに野宿が出来る場所はありますか?」と率直すぎる質問を投げかけてみた。

が、警察という立場上、当然答えはNO。どこか宿坊にでも泊まるか、市役所の方に聞いてくれということだった。

仕方がないのでその足で市役所へと向かい、同じ質問を投げかけるも、例によって返答は「NO!」

警察からも市役所からも見放され、もう一体どうすればええんや……と市役所前のソファで途方に暮れていた。強くなる雨脚が一層孤独感に拍車をかけ、最後の最後で試練が待っていたか……という気持ちにさせる。

そしてもう野宿場所を探す気力も失せ、ソファに腰掛けながらぼーーーっと放心状態のような時間が続き、気づいた頃には時刻は18時を過ぎてしまっていた。辺りはもう暗くなってきている。

しかし今更どうしようもないので、正式に許可は取っていないが、このままこのソファで朝を迎えてしまおうと考え始める。

そうと決めたらまずは迷惑にならないように、市役所の営業終了を待ち、辺りが暗く静かになるまで適当に時間をつぶす。

19時頃になり市役所の人気は消えたものの、一人の兄ちゃんが休憩なのかは知らないがソファに腰掛け、なかなか席を立とうとしない。

……20時、まだ立たない。

…………21時、まだスマホをいじっている。

この辺でいい加減に我慢ならなくなり、もういっそこの人と友達になってしまおう作戦を決行することにした。

灰皿にタバコの灰を捨てに行くふりをして、近づきざまに

「この辺にお住まいの方なんですか?」という調子で話を切り出す。

スマホの画面から顔を上げた彼は予想よりもだいぶ若い青年だった。イヤホンを耳から外すと

「ああ、僕はこの辺りの宿坊で働いています。」とのこと。

とりあえず返答が帰ってきたならこっちのもので、僕もお遍路をしてさっきここにつき、クマの脅威に怯えて今日はこの場所で一夜を明かそうと思っている旨を伝える。

その後はお互い同世代ということもあり、身の上話をしながらなんなく打ち解け、最後はアドレス交換をした後に握手をして別れた。

彼からは高野山の情報を色々と仕入れた中で、何でも明後日がお大師さんの誕生日らしく、高野山では一年に一回「青葉祭り」と呼ばれる町を上げたお祭りがあるらしい。

これも何かの縁だなあと感じた僕は、当初の予定を変更して、明後日まで高野山に滞在することにした。

そうこうしていると、もう0時を過ぎていた。

とりあえず今日はこのままクマに襲われないように祈るばかりだ。

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【ふぉろーみー】