腹黒システム
ホストにとって最も稼ぎ時でもある誕生月。
そう、今月は僕のバースデーイベントの月だった。
バースデーということもあり、キャストとの協力プレイで順調に売上を上げることができていた。ちなみにホスト同士は仲が悪いと思われがちだが、基本的に彼らは協力し合う。ライバル関係とかは勿論あるにせよ、店ぐるみで売ったほうが、単純に売上が上がるからだ。
よくある例を挙げる。ホストはお店に来店してくれた女の子一人ひとりに挨拶回りに行くのがルールだ。そこでA卓だけ1人のホストに挨拶回りを“あえて”行かせないようにしておく。
次のステップとしてそのA卓の担当ホストが
「あいつ俺らんとこだけ挨拶回り来ないとかウザくね?」
と、女の子に嫌いなホストとしてインプットさせておく。
そして十分に”ウザいホスト”として教育した段階で、そのウザいホストがいるB卓でシャンパンを入れる。
そしてA卓の担当ホストは
「俺アイツとはライバルだし、俺らんとこだけ挨拶こないような舐めてるやつにマジで負けたくないわ」
などと対立構造を組み立ててあげれば下地は整う。
それ以降はA卓で5万のシャンパンが入ったら、B卓で6万、すかさずA卓で7万すかさずB卓で8万……とシャンパン合戦に持ち込む。
そして営業終了後にキッチンでそのホスト2人はハイタッチを交わし、嫌われ役になったホストに飯でも奢ってめでたしめでたしという構図だ。
自分で書いていてなんともまぁ腹黒い仕組みだなぁと思う反面、女の子の心理を突いた上手いシステムだとも思う。
調子に乗ってもう1つ僕がよく使っていた例を挙げると、ホストクラブではシャンパンを入れると、基本的にはコールがかかってその場で飲みきってしまう。つまり後に形としては何も残らない。
一方「飾りボトル」と呼ばれる外装に凝ったものもあり、それはシャンパンとは違って永久に自分の卓に残しておける。いつ来てもスナックにおけるキープボトルのように、卓に並べられるのだ。
僕はこの飾りボトルの方を好んで入れていた。理由としては簡単で、飾りボトルとは女の子の承認欲求の塊だからだ。自分が今までこれだけこのホストにお金を使ったんだという、ある種の勲章を誇示することが出来るツールなのである。
そしてうちの店では一番安い飾りボトルは35000円という比較的手を出しやすい価格から提供していたので、まずはそれを入れてもらう事が多かった。
しかしこの飾りボトルが実は7種類のシリーズ物で1ついれるとソシャゲでよくあるコンプリートしたいという心理をくすぐれる。更には2人で7種類コンプリートするんだという共通目標を作れるという点も大きかった。
20歳で月収200万
話を戻そう。
店ぐるみでの売上努力の甲斐もあり順調に売上を伸ばした僕は、締め日に先月ナンバーワンだったライバルホストとの争いもなんとか制し、遂に念願のナンバーワンをとることができた。やっと目標が果たせた瞬間だった。
この時の月収は既に200万を超えていた。
そして勢いそのまま、次の目標でもあった幹部にも昇格した。
店ごとによって役職の昇格基準は異なるが、うちの店では100万以上の売上を小計(純利益)で4ヶ月連続でとると幹部になれる仕組みだった。
幹部になるといよいよ代表からバイトを辞めるように促される。
そう、何を隠そうバイトでホストをやっていた僕の出勤スタイルは、基本的にお客さんを呼べる時しか出勤しなかったのだ。出勤する時は必ず何組か呼ぶようにしていたため、店側から文句を言われることもなかったが、なんせそのスタイルだと他の卓のヘルプに全くつかない。
そのため、ナンバーワンになったものの、他のお客さんから「誰あれ?」や「名前しか聞いたこと無い」という声も多かった。それではお客さんにも、下の子にも示しがつかないということで、促されるまま僕は週5出勤のサブレギュラーになった。
しかしいざ本職としてホストを初めた矢先、問題が発生する。
次の目標が見当たらなくなったのだ。
なぜホストをやっているのか
ナンバーワンも取ったし、幹部にもなった。じゃあ自分は今何のためにホストを続けているのだろうと自問自答するようになっていった。
やる気がなくなると、勿論売上も激減した。女の子への連絡もマメではなくなっていった。
自分は何がやりたいのか。
ホストで成功して独立し、自分のお店を持ちたいのか。ホストを辞めて昼職に就くのか……。
自分はどうしたいのだろうか。
別に夜のお店の経営者になりたくもない。かといって金銭感覚が狂っている今、昼職にはつけないだろう。
悩んだ
悩んで悩んで
結局店を辞めることにした。
やはりホストを続けていてもどうしても先が見えなかった。
ホストを辞めて、行けていなかった学校にいく決意をした。
だが、幹部になってしまった今、そう簡単に辞められるものでもない。
柳「オーナーちょっとお話が!」
オーナー「どーした?」
柳「あの、実は俺店をやめようと思ってて……」
オ「え、無理!」
柳「えぇ……ちょっと話だけでも……!」
オ「あーあー聞こえなーい!!」
そんな感じのやり取りが数日続き、オーナーは中々僕を辞めさせてはくれなかった。しかし僕の士気は下る一方。勿論売上もどんどん落ちていき、ナンバーなんか入れるわけもない。
柳「オーナー分かりますよね?もうやる気が無いんです。」
オ「なんでだよ!この店で頑張って、ゆくゆくはうちの店経営するんじゃダメなのか?」
柳「夜の店経営することに魅力が感じられないんです。逆にどーしたら辞めさせてくれるんですか?」
オ「どーしても無理だな。今お前がいなくなったら、幹部が一人抜けることになって店としても厳しいしな」
柳「……じゃあこうしませんか?――今見ての通り俺、売上全然ですよね?店の売上に貢献できてなくて申し訳ないです。だから来月、もしナンバーワン取れたら、それできっぱりラストにしてくれませんか?」
オ「……本当に取れんのか?」
柳「やる気はあります。」
オ「……分かったよ。そのかわし、取れなかったら店にいてもらうからな。」
柳「はい、それは約束します。」
かくして僕は一世一代の賭けにでた。
勿論取れる保障なんて全然なかったけれど、このくらい言わないとズルズルと続けてしまいそうな気がしたのだ。
ホスト引退
そしていよいよ約束の月。
お客さん全員に辞めることを告げ、そして同時にナンバーワンを取らないと辞めさせて貰えない事も伝えた。
普通に考えたら、辞めるホストにお金なんか使わないだろうが、僕はお客さんに恵まれていたのか、みんな最後だからと言って協力してくれた。
そのおかげで売上は順調に伸び、締め日には二位と結構な差を付けてナンバーワンをキープしていた。
――やっと辞められる。そう思っていたところに、ふとナンバー2のやつが近寄ってきて
「あ、俺今日エース来るから」と言い残して去って行った。
「……終わった」絶望的だった。
そのエースの子は一晩で三桁を平気で使うような子なのだ。もう他の子に営業をする気にもなれなかった。
そして一時間、二時間、と時間が経ち、そろそろラストオーダーの時間が近づいてくる。例のエースの子はまだ来ない。
もしや、と思いNo.2の奴を問いただすと
「あぁ……あれ嘘(笑顔)」
――めちゃくちゃホッとしたのを覚えている。
最期は茶番だったものの、こうして僕は無事オーナーとの約束を果たしホストを辞めることが出来た。
ホストで学んだこと
ホスト辞めて色々振り返ってみると、やはり一番学んだことは「人間」だ。ホストはいつの時代も男を狂わすオンナとカネを地で扱う職業だけれど、その根幹には常にそれに伴う人間心理がこびりついている。
例えばお金に関して言うと、以前僕はお金というものは人を悪い方向へと変える怖さがあると思っていた。しかし、お金は人を変えないという本質に気づいた。お金は人を変えないが、お金はその人間の本性を助長させる。つまり、大金を持った途端に人が変わる奴は、元々そういう性(さが)を持ち合わせていただけなのだと思うようになった。
また、ホストは女性を落として商売をする側面があるが、女性とは、そもそも人間である。つまり人間を落として仕事をするという点においては、他の仕事にも通じるものがあると思った。
そして絶対的に言えることは、このホスト時代の経験がなければ、僕は間違いなく普通に大学に行き、そのまま就職という道を選んでいたことと思う。
思えばホストという仕事は店から箱だけ借りて、集客、教育、セールスなど全ての工程は基本的に自分一人で行う。いわば個人事業主のようなものだ。そう思うと既に起業もどきみたいなことは知らず知らずのうちにしていたのかもしれない。
だからこそ僕はこのホスト時代の経験を悪いものだとは微塵も思っていない。全ては必然だったんだと思う。
そんなことを肌感覚で学ぶにつれ、僕は就職より起業しよう。という思考にシフトチェンジしていった。
さぁホストも辞めれたし、とりあえずちゃんと学校へいこう!
柳少年は気持ちを新たに新しい一歩を踏み出すはずだった……この時までは……。
【20歳で月収200万を手にした男】~ホスト時代編~前編(前章)
【20歳で月収200万を手にした男】~ホスト時代編~後編(今ここ)
【20歳で月収200万を手にした男】~AV女優のヒモ編~(次章)