昨日は海辺近くの公園にテントを張り、そこには高台もあったので、これは明日早起きして朝日でも見たら絶対に綺麗だろうなーと考えていたが、普通に寝てた。
四国遍路を始めてから、目覚ましをかけなくても朝日が昇れば自然と起きられる体にはなったけれど、起きてから活動を開始するまでにはまだ時間がかかる。こっちにきても朝弱いのは変わらないらしい。
7時頃には既におてんとさんは雲に隠れてしまっていた。今日は1日曇りで、夜頃から降り始めるらしい。
準備をして8時に出発。おそらく今日もどこの札所も参拝できない。足摺岬に向けて淡々と歩いて1日が終わるんだろう。
曇りの海沿いはとても涼しい。風もそこまで強くないので歩きやすい。途中、サザエさんのエンディングテーマ曲の中に出てくるような家があった。
歩きながら、足腰が強くなっているのを感じる。足の指にできたマメは皮が硬くなり、触ればカッチカチでマメが出来にくい頑丈な足になっていっているのが分かる。
四国遍路には遍路ころがしと呼ばれる難所がいくつかあり、その中でも12番札所の燃山寺に至るまでの山越えが一番キツイと言う人が多いらしい。でも思うに、それはまだ足腰が出来上がっていない状態で歩き遍路に訪れる最初の難所であるからであり、今もう一度登ったら最初の時ほど辛さは感じないのではないのかと思う。だからどこからスタートするかで人それぞれの難所は違い、雲辺寺辺りからスタートするならば、そこが最大の難所だと感じるんだろう。たぶんだけど。
とにかく足腰は強くなった。あとは病気や怪我などにだけ気をつけて、じっくりと進んで行きたい。
道の駅ビオスおおがたで、念願の焼き魚を朝食に食べる。こんなにしっかりと朝飯を食べられるのは、平等寺の後にゆき荘に泊まった日以来かもしれない。
ご飯粒1つ残さず完食した後、うっすらと雨が降る中を歩き始める。やはり朝しっかり食べるとエネルギーが違う。霧雨はすぐ止み、それからはずっとどんよりとした曇り空が続く。
中華製よろしくドラえもんに上書きしたかのようなバイキンマン
!?!?!?
しばらく田園風景を横目に歩いていると、テレビなどで一度は見たことがある、あの大文字の送り火をする山が見えてきた。うっすらと「大」の文字が浮かび上がっている。
その後も、ハッキリ言って特に何もない道を淡々と歩いていくと約1.6キロもあるトンネルにぶつかる。歩道はあるものの、トンネルは車の音も、排気ガスの匂いも、やはり遍路に適した道ではないことは確かだ。
トンネルを急ぎ足で抜け、ハッキリ言って特に何もない国道を淡々と歩く。特に何もない道を淡々と歩いていると、最初は家族のこととか、今まで出会った人のこととか、この旅で気づいたこととか色んなことを考える。でも、しばらくすると、それさえも考えようとしなくなり、更には考えないということを考えないという、文字にすると分かりにくいがいわゆる無の境地に入る。たぶんうちの姉なんかは、きっとこのブログをたまに目を通すくらいはしてるんだろうから、その時考えた家族の事を書こうとも思ったんだけれど、ひたすら歩いていると、「なんかもうどうでもいいや」というか、それを書くということに対する一抹の違和感を感じ、結局、少し前の記事に書いた禅の精神よろしく、自分がその時にそう感じたという事実を、自分の中にだけ留めておけばいいやと思うに至った。
そんなこんなで淡々と歩き続けて16:30頃にドライブイン水車に到着。ここはトイレに隣接されている四阿で野宿も出来るらしいが、まだ足がいけそうだったので、もうちょっと進むことにした。
土佐は龍馬の故郷でもあり、いたるところに龍馬の銅像が建っていた。この海原を龍馬も見ていたのだろうか。知らんけど。
当初は市野瀬の辺りで野宿をする予定だったが、なんか気付いたら通り越してたので「これは足が跳ねている!」と思い、ドライブイン水車から大体12キロほど先にあるじんべい広場という野宿ポイントを目指すことにする。
道中、大岐の浜という約1.6キロに及ぶ開けた海岸沿いを歩く。砂に足が奪われ、靴の中にまで入って歩きにくい。大岐海岸を渡り始めたのは19時頃だった。もう日は暮れかけていて、この薄暗さがいつまで持つか若干の不安が募る。
ーー30分後
こわすぎである。波にのまれるかと思った。
というか実際問題も起きていて、海岸の出口がヘッドライトを点けても暗すぎて分からないのだ。マップアプリを何度も見ても海に突っ込むルートを表示するので、Googleは俺を殺す気なのではないかと思った。
もういくら探しても分からず、ただただ時間が過ぎていくだけの状況に嫌気がさし、バカバカしいが諦めて来た道を引き返すことにした。正直ここに来るまではじんべい広場までも余裕でたどり着けそうで、四国遍路よゆうなんじゃないかと思いもしたが、見事にフラグだった。やはり一筋縄ではいかないようである。人間、こういう状況になると疲れも何もかも吹っ飛び笑えてくるものである。海岸沿いを引き返している時は、肩の重さや夜の海を1人で歩く怖さなんか忘れ、ひたすら笑いながら歩いていた。
1.6キロ引き返して、浜の入り口の橋にたどり着く。表情が見事に違う。
戻ると、猫が1匹迎えてくれた。猫よ、お前だけが友達だ。
そこからはもう道に迷わないために、ひたすら国道沿いを歩くことにした。もう夜である。景色なんかどのルートも同じだ。ひたすら闇である。更には追い打ちをかけるように雨も降り出してきた。「もう、ふざけんじゃねえよ」と一瞬思ったが、その直後「ああ、もう、どうにでもなれ!」と思う自分がいた。投げやりとか自暴自棄とかを一周回って、快活な自分と出会った。それからはもうひたすら、歩く。歩く歩く歩く。アメニモマケズカゼニモマケズ。
確実に幽霊が出そうな車も通らない道を、ヘッドライトの明かりだけを頼りに進み、やっとのことでじんべい広場に到着した時は21時だった。そこには既に到着していた2名の歩き遍路さんがいて、後で聞いた話では「j-walk-navi」という名前でYouTubeをメインに動画をあげながら四国遍路をしているらしい。今は、動画を見てくれているユーザーさんが会いに来てくれるというので、それを待っているところらしい。軽く談笑しながら今日の歩行距離を聞かれたので、なんともなしにスマホで確認してみると、
「52.3キロ」
!?!?!?
頭がおかしい。自分でも目を疑ったが、1日で歩いた距離がフルマラソンを余裕で超えていた。足腰が強くなっているとか、そういうレベルの話ではない。これには先ほどの2人のお遍路さんも驚いたらしく、連絡先を交換する時に「じんべい広場の鉄人」と登録された。
その後、車でお2人に会いに来た方が、大量すぎるお接待を持参していたので、ありがたいことに僕もお相伴させてもらった。更には近くに期間限定で住み込んでいるという高知大学の学生さんからも、今朝採れた魚の南蛮漬けも頂き、何やら大勢で宴みたいな夕食が始まった。
楽しい宴の後、ここには書かないが高知大の学生さんにまたありがたいお接待をして頂き、結局寝床についたのは1:30を回った後だった。
高知の人はあたたかい。j-walk-naviのお2人も、良い人柄が滲み出ていた。お2人は四国遍路か終わった後に、お礼参りではないが、この旅でお世話になった人一人一人に会いに行くらしい。そのために、住所と電話番号を細かく聞いていた。単純に、とてもいいなぁと思った。心がポカポカする。
四国遍路は色んな回り方があるが、きっとこの方達の遍路旅は、中島みゆきの歌じゃないけど、1つの縦糸に深みのある横糸がびっしりと張り巡らされていきそうだなぁと感じる。
僕の歩き遍路旅にも、今夜また新たな横糸が加わった。明日のことは分からないけど、今をしっかりと紡いでいきたい。そう、強く思う。
【支出】飲食費130円、300円、420円、130円
【歩行距離】52.3キロ
【参拝霊場】なし