細長い筐体の中に4列で区切られたシートがある。一人また一人と、個体が筐体の中に流れ込む。僕はいつもこの箱の中に他の個体と詰められ、物理的に遠いどこかへと運ばれる。その様を俯瞰してみると、家畜と何ら変わりがない。満員電車よりはいくぶんマシだというくらいだ。そして今。僕はまた筐体の内部にいる。夜に。いつもと違うのは、それが札幌から旭川へと向かう片道2時間ほどの高速バスだということだ。しかも平日の夜。僕が知る筐体の様相とは打って変わって、個体が少ない分、空間が広い。いつもはトランクに入れてもらう図体の大きなザックは車内に持ち込んだ。人がいないからだろう。「持って乗車しちゃって大丈夫ですよ!」と運転手に声をかけられたのだ。
僕は、なんともなしに1番前の席に座った。札幌の繁華街を抜け、高速に乗る。すぐに周りの景色は移ろい、ただひたすらの闇が眼前に飛び込んでは、流れていく。他に視界に入るものといえば、電波感度が悪くザラザラとした民法のバラエティと降車案内の電光掲示板。2列横でヘッドフォンをつけながら腕を組み、今にも眠りに落ちそうな年配の男性くらいなものだった。
夜行バスに揺られるのは割と好きだ。自分が強制的にどこか知らない土地へ連れて行かれる様な錯覚に陥る。景色という景色はなく、闇の中に等間隔で明滅する反射板と街灯の光。トンネルに入っても光は等間隔で設置されている。全てが等間隔にある世界で、自分は同じ所を永遠と廻っていて、もうこの場所からは抜け出せないんじゃないかと夢想して、頭がおかしくなりそうになることがある。それでもそんな不安をよそに、バスはきっちり定刻通りに自分が望んだ目的地へと僕という個体を運んでくれるのだった。