【傑作】さよならタマちゃん

スポンサーリンク

また、素晴らしい漫画に出会ってしまった。

昨日「さよならタマちゃん」という漫画を読み終えた。

1巻完結だったのでさらっと読めたのだが、内容は深く心に残るものだった。

簡単なあらすじを言うと、35歳の漫画アシスタントの著者が

精巣に腫瘍ができ、その癌との闘病記である。

これまた著者自身の身に起こったことに基づくドキュメンタリーであるが、

その重そうな題材を、見事漫画というエンターテイメントに昇華させている。

絵もコミカルなタッチで、結構可愛いと思った。

読了前は、この漫画について、おそらく自身の闘病経験を通じて

人と人との繋がりの大切さを改めて実感するというテーマであるのだろうと思っていた。

読了後、確かにテーマ的にはその通りだったのだけれど、

僕がそれ以上にこの漫画に感銘を受けてしまったのは、

人が夢をかなえるプロセスが、この漫画にはぎゅーっと詰まっていたからだ。

著者自身も35歳という年齢で、

未だにアシスタントという立ち位置に歯がゆいものを感じていたそうだが、

皮肉にも、病気になったことにより書くことが出来た、

この自身の闘病記で念願の漫画家デビューを果たしてしまうのだ。

僕はこの漫画を読みながら、あの名作、「ロッキー」を思い出してしまった。

ロッキーもシルベスター・スタローンの半自叙伝的な作品である。

自分の恵まれない半生を描きつつ、

ラストは絶対に叶うはずがない強大な存在に対して、一石を投じる様が描かれている。

スタローンの夢や希望的存在であったロッキーを通して、

スタローン自身も現実の世界でスターダムへと駆け上がっていくのだ。

人生は本当に何が起こるかわからない。

さよならタマちゃんの著者の武田一義さん自身も本作の中で

まさか自分がこんな病気にかかるとは思っても見なかったと述べている。

そう、人生は本当に何が起こるかわからないのだ。

しかし、何が起こったにしろ、本作から学べることは、月並みな表現になるかもしれないが、

「人生に無駄なことは何一つ起こらない」ということだと思う。

著者が患った癌でさえも、漫画家デビューするための贈り物だったと解釈すれば

それは決して無駄なことではなく、むしろ必要なことだったと考えられるかもしれない。

一方で重要な事は、解釈1つで物事は上記のようにプラスに運ぶこともできるし

マイナスへと繋がる可能性もあるということだと思う。

病気になって、それを悲観的にのみしか捉えることが出来ないのであれば、

そこからは何も発展することはなく、それこそ単純に“不幸な出来事”として終わってしまうだろう。

しかし、そこはこの著者のように、表現者としての業なるものの力で

自身の体験を描き切ったことにより、新たな道が開けてくる場合もあるのだ。

本作はその結果として、漫画家としての夢を叶え、スタートラインへと立てることになる。

勿論現実として、いつもプラスの結果が出るとは限らないけれど、

表現することをやめてしまったら、思考することをやめてしまったら、

そこからは何も生まれることはないのだ。

以上のことを加味すると、本作は、

病気をきっかけとした自分自身への挑戦の物語なんだと思う。

目頭が熱くなる、素晴らしい漫画だった。

ぜひ読んでみることをおすすめします。

【さよならタマちゃん(武田一義)】