【徒歩日本一周】ちんこの小ささ【45日目】

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今日も知らない天井で目が覚める。

と言っても昨日のことがあったので、改めてお家の方にきちんと挨拶をさせて頂こうと思い、台所で朝食を作っているお母さんに「おはようございます!」と声をかける。すると普通に「おはようございますー」と返事が返ってきた。よかった。それから息子さん夫婦と、子ども2人にも挨拶を交わし、昨晩のお礼を改めてする。

昨日はイキナリ押しかけてしまったから色々とアレだったが、よくよく考えれば布団も敷いて頂き、お風呂も入らせて頂き、そして今朝食も出して頂いて感謝しかない。

あまり会話を交わすことは出来なかったが、突然の来訪に対応して頂いて本当にありがとうございました!

――朝食後おっちゃんと今後のルートに関して話していたのだけれど簡潔にまとめると「今すぐ北海道に行ったほうがいい」的な話の流れになった。

唐突な提案だったけれど一瞬心がざわつき、ワクワクするのを感じた。そういう感情は大切にしようと思い、真面目に考えてみたところ、今から北海道に行けば梅雨も避けられるし、何より冬になる前に北海道を回れる可能性が高い。逆にこのまま本州を歩いて北上して北海道に行った場合は高確率で冬の北海道を歩くことになり、野宿なので野垂れ死ぬ可能性もある。

それならば先に北海道を回ってから、その後に東北を歩いて繋げた方が単純に選択肢としては賢い。さらには大洗からは苫小牧行きのフェリーが出ている。一気に現実味が出てきた。

フェリーの時間まではまだ余裕があったので、どうするにせよとりあえず大洗をぶらつこうと思いおっちゃんに大洗磯前神社の前まで送って頂くことに。

その前に昨日奢ってもらえなかった方に会いに行こうと言い始め、おっちゃんに連れられその方に会いに行くことに。

その方の仕事場に顔を出すと「げ。捕まっちまったよ。」とでも言いたげな顔をしながらアイスコーヒーを差し出される。

おっちゃんとその女性二人の会話を傍から聞いていると、現代人と昔の人が話しているような、会話の噛み合わなさを感じた。

「そんな会ったこともない見ず知らずの人にご飯ご馳走したりしないでしょー!というかされた方にも気を使わせちゃうでしょ!」と言う女性と

「いやいや、そんなことは俺は思わない。昔はそういう関係性が当たり前だったやろ」と言うおっちゃん。

そんなやりとりをしばらく見ていて思うのは、あぁ、このおっちゃんは相当不器用な人なんだなぁということだ。おっちゃんと女性、どちらの考えが正解というものはないが、今の日本では少数派であろうおっちゃんのような人間に、旅人が救われているのは事実だ。

人類皆兄弟の思想とか隣人愛だとか、それは国と国との間では難しい話なのかもしれない。けれど、せめて個人の間では、その理念は失われてほしくはないなあと思う。

おっちゃんのような人間が生きづらくない社会に、もっともっとなっていったらいいなあ。


――大洗磯前神社の前でおっちゃんと別れ、長い階段を登り参拝に行く。

境内の鳥居からは太平洋が一望出来た。

ん?

んんんんん?

絵馬すごい。大洗はガルパン(ガールズ&パンツァー)というアニメの聖地らしかった。

参拝後、本当に北海道に行くかどうか太平洋を目前にしばし考える。こういう時、理詰めで考えても何も意味はないんだろうけど、そういう思考をしてしまうのはどうやら癖だ。

岸壁にあぐらをかいて太平洋を眺めていたら、「この海の向こうはアメリカかぁ……」という想いが顔を出し始めた。

北海道に行くか、海を渡って世界に行くか。ザックにはパスポートも入っている。

この二択でしばらく熟考していた。していたのだが、不意に後方にあったホテルの窓から女性に声をかけられる。

なんでもそのホテルの女将さんらしく、今日はホテルが休業日なので何もしてやれないが、泊まるところがないんならうちのホテルに泊まっていきますか?という最強に魅力的なオファーを頂いた。

今日どうするかの決断はひとまず先延ばしにして、そのご厚意に預かることにする。

女将さんに聞けばなんとこのホテルは慶応元年創業でもう150年以上もの歴史がある老舗中の老舗だった。

休業日ということで僕以外にお客さんは一人もいない。物音がほぼしない。こういう時は落ち着いて本でも読みたい。と、思っていたら都合よく本が並べられていた。

その中から数冊手に取り、部屋で読みふける。その中にあった加島祥造さんの「求めない」という一冊が「まさに今読むべくして与えられた本だ!!!」と言わんばかりに個人的にタイムリーでめちゃめちゃ染みたので一節を紹介したい。

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誤解しないでほしい。

「求めない」と言ったって、どうしても人間は「求める存在」なんだ。

それはよく承知の上での「求めない」なんだ

食欲性欲自己保存欲種族保存欲

 

みんな人間のなかにあって そこから人は求めて動く

――それを否定するんじゃないんだ、いや 肯定するんだ。

五欲を去れだの煩悩捨てろだのとあんなこと嘘っぱちだ、誰にもできないことだ。

「自分全体」の求めることはとても大切だ 。

ところが 「頭」だけで求めると、求めすぎる。

「体」が求めることを「頭」は押しのけて別のものを求めるんだ。

しまいに余計なものまで求めるんだ。

 

じつはそれだけのことなんです、 僕が「求めない」というのは 求めないですむことは求めないってことなんだ。

すると体のなかにある命が動きだす。

それは喜びにつながっている 。

だけどね、意外にむずかしいんだ 、 だってわたしたちは体の願いを頭で無視するからね。

ほどよいところで止める――それがポイントだ。

でもそれが出来なければ、ときにはもう求めないと自分に言ってみるだけでいい。

すると、それだけでもいい気分になるとわかるよ。

 あらゆる生物は求めている。

命全体で求めている。

一茎の草でもね。

でも、花を咲かせた後は静かに次の変化を待つ。

そんな草花を少しは見習いたいと、そう思うのです。 

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 ひとは、誰もみな誰かに求められたがっている、だって誰にも求められない自分を思うと寂しいからだ。怖いからだ。

その恐怖を消そうとして、ひとは誰かを求める。 これは当然さ ――それでいいんだ。

でもね、心ではなく力で求めたとき、相手は恐怖を持つよ。 力ずくでひとを求めないとき、ひとはあなたを求めるようになる

――だってひとは求められないことで、君に安心するからだ。そしてかえって、君に、なにかしてやりたくなるんだ。 

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〜加島祥造「求めない」〜

――夜。部屋の明かりをすべて消すと、窓から差し込む月明かりが照明になった。

太平洋の水面には月明かりが直線状に延々と反射している。

耳を通り抜ける潮騒が心地良い。

これは俺もいよいよ文壇人っぽくなってきたなぁなどと物思いにふけっていたのもつかの間

めっちゃオナニーした。

「求めない」を読んだ直後に秒速で求めてしまった。

しかも、オカズは月だ。いよいよ大自然をオカズに出来る身体になってしまった。

ああ!この何も見返りを求めずただただ存在している尊大な太平洋と月に比べたら俺はなんてちっぽけなちんこ(やかましいわ)なんだろう!!!「どぴゅっ!」とかやっていた。ちょっとまて、俺は今何を言っているんだろう。

――落ち着こう。いや、そりゃ出すもんだしたら嫌でも落ち着くけれど、ひとまず今書いたことは忘れよう。そうだ、煩悩を捨てきれないのが人間だ。求めない!と思った直後に求めてしまうのが人間なのだ。(ということにしておこう)

――とりあえず布団を敷く。日本酒を一口あおる。先程の行為によるものなのかは分からないが、不思議と心は落ち着き、雑念は消えている。

部屋に差し込む月明かりと潮騒の音色、畳の匂いと壁に掛けられた掛け軸、ティーバッグで入れたお茶と幾ばくかの茶菓子、ペットボトルに入った日本酒と冷蔵庫で冷やした水、無造作に脱ぎ散らかした服と旅館の浴衣、太平洋に面した大きな出窓とテーブルの横に左右対称に並べられた椅子、色んなものに色んな意味で感謝をしながら、その時決めた。

「――よし、北海道に行くか。」

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【ふぉろーみー】